ドイツ国鉄 DRG 高速旅客用タンク式蒸気機関車 BR 61 001号機 (Lima 149790)

 今回は戦前のドイツの鉄道黄金期を代表する高速列車 Henschel-Weggmanの牽引機として名高い高速蒸気機関車 BR 61について紹介します。

 BR 61は、戦前のドイツを代表する高速列車Henschel-Weggmannを牽引した三気筒の高速タンク式蒸気機関車です。

 <DRG BR 61001 主要諸元>

 型式:2'C2' h2t、バッファ間距離:18.475m、運転重量:129.1t、軸重:19.0t、軸配置:2C2、動輪径:2,300mm、過熱式二気筒、出力:1,066kW、ボイラー圧力:20bar、最高速度:175km/h 

 1930年代、ドイツ国鉄DRGは高速交通網の建設を企図しておりました。

 これに対し、当時としては画期的な新技術であった電気式の高速ディーゼルカーSVT フリーゲンター・ハンブルガーを投入し好成績を収めました。

 しかし同車種は非常に高価だったこと、またあまりにも新しい技術のため、不安も予想されてことから、在来動力による高速化も併せて検討されました。

 このため、当時の技術の粋を投入して製造されたのが、いわゆるHenschel Weggmann Zugです。以下HWZと記します。

 その名の通り、機関車BR 61001がHenschel社で、流線形の先進的な客車 4輌がWeggmann社で作られました。

 上記の通り、HWZは電気式の高速ディーゼルカーとの比較が前提とされたため、折り返し駅での素早い転換が求められました。

 すなわち、転車台を用いる機関車の転回を排他するために、機関車はタンク式を採用し、かつ転回不要とするために前後進とも同じ性能を発揮できるように計画されました。

 ただし、LBEのような推進運転は計画されませんでした。

 BR 61は当時のDRGの制式機関車を基礎に設計されましたが、技術的な挑戦も数多くなされています。

 具体的には、20barという高圧ボイラーを使用し、1,066kWを出力させ、制式機最大径となる直径2.3m動輪により、機関車単体では175km/hに簡単に到達し、試験運転ではなんと185km/hを発揮したそうです。

 ただし、BR 61 001は二気筒機のため、高速走行時のシリンダ前後動によるスラスト方向の振動が著しく、客車にまで振動が伝搬してしまうという大きな問題を生じたため、列車としての最高速度は135km/hに減じられました。

 BR 61は高速性能を発揮するために全面流線形カバーが装着されました。

 また前進と同等な後進を行うため、後方視界の確保と共に、後進用の運転装置もつけられています。

 これにより、BR 61は公式側と非公式側の運転台の窓とドアが逆になるという珍しい配置になっています。

 機関車に組み合わせる客車の方も流線形の先進的なものであり、車体下部を覆うスカートやシャーフェンベルク式の自動連結器を装備しています。

 その頃の常識を覆したHWZは、機関車を含む一編成がDRGの優等列車ラインゴルトと同様な紫/クリーム塗装をまとい、1935年に完成しました。

 そして、ニュルンベルクで開催されたドイツ鉄道100周年の展示会などを経た後の1936年より、ベルリンードレスデン間の運用に投入されました。

 結果は上々であり、同区間176kmを100分間で走行しました。

 なお、この記録は現在に至るまで破られていないそうです。

 また、画期的な高速列車として登場したHWZですが、列車種別上は急行列車(D)でした。

 従って、ラインゴルトのような特急(FD)とは異なり、急行料金のみかかり、2等車及び3等車が設定されています。

 BR 61 001に続き、派生型の002が製造されました。

 002号機は、上記の振動対策、及び起動牽引力向上のため三気筒が採用され、また供給間隔を開けるために水と石炭も増量されています。

 これらの重量増加に対し、軸重を維持するため従台車が3軸となりました。

 外見的にはデフレクタも取り付けられていますね。

 ただし002の完成が1939年になったため、HWZに運用されることはありませんでした。

 なお、BR 61 001が修理や点検等で使用できない場合は、BR 01やBR 03がHWZに使われたそうです。

 これらの機種の最高速度は130km/hでしたが、上記のようにベルリンードレスデン間の最高速度は135km/hになっておりましたので、さほど影響はなかったそうです。

 なお、HWZにはシャーフェンベルク式の自動連結器が装備されていますが、BR 01やBR 03が代走した際、どうやって連結したかという記述は見つかりませんでした。

 このようにセンセーショナルを引き起こしたHWZでしたが、その栄光は短いものでした。

 と言うのも軍靴の足音が間近になった1939年8月、ドイツ国鉄は優等列車の運転を停止しました。

 これにより、HWZの第二編成は実現しませんでした。

 そして、HWZ客車はドイツ軍に徴用され、当初は高官用として、その後は内装を撤去して病院列車として使用されたようです。

 仕業を失ったBR 61001は、1940年には暖房機関車として使用されていたようですが、1940年からは急行運用に戻り、42年11月には通常のバッファー&リンクに交換されています。

 この間、塗装がグレーに変更され、検車時の合理化を図るため、他の流線形機同様、後には足回りの流線形カバーも取り外されました。

 BR 61 001は英国占領地域で無事終戦を迎えましたが、戦中戦後も含め、あまり使用されませんでした。

 やはり高圧の高速機だけに使用局面が少なかったのでしょう。

 おまけにいわゆる破片クラスですし。

 戦後、DBに継承され、ある程度は使われるようになったようですが、1951年、ミュンスターでの事故のため損傷を受けてしまった結果、1952年に廃車となりました。

 その後解体されたようで現在、残存していません。

 なお、BR 61 002は東側のドレスデンに残りました。

 やはり使いにくい機種だったこともあり、ほとんど使われないままでしたが、1961年、高速機関車の試験用機として試作されたBR 18 201に動輪が転用されることになりました。

 以上、Wikipedia 独語版 DRG-Baureihe 61Hensechel-Weggmann Zugより引用、参照致しました。

 さて、模型の方ですが、有名機種ではあるものの、欧州人にとっては微妙な?Ep. IIbの車両だけに、模型化は決して多くはありません。

 Modellbau-Wiki DR-Baureihe 61によりますと、HOの量産製品は1989年のRivarossi、2005年のMarklin/TRIXだけです。

 不思議なことに、この両者ともスケールモデル以前の模型鉄道として大きな問題があるようです。

 まずMärklin/TRIXですが、こちらは所有しておりませんので詳しいことはわかりませんが、ダイカストの質感、シャープな2.3m動輪など、一見すると素晴らしい製品に見えます。

 しかしその実態は、同社らしくない製品だそうで、集電が悪いとか、先輪カバーが復元しないという欠点があるそうです。

 またモーターにも問題があるという記事を見た記憶があります。

 そのためかどうかわかりませんが、Märklinからは2009年のDB仕様以降、再生産されていないようです。

 一方、Rivarossiは初のプラ製品として1989年に発売されました。

 Rivarossiはこちらで紹介する1993年のLima製品と同じもののようです。

 ただし全く同じではなく、Web情報によるとLima版はRivarossi版に比べると別体だった手摺が一体成型になるなど簡略化してあるようですね。

 それでこの製品には致命的な欠陥があります。

 それは動力伝達にゴムベルトを使用している点です。

 ゴムベルト駆動には良い点は一つもありません。

 最大の問題は、ゴムの劣化が極めて速いことです。

 これには繰返し応力による物理的劣化と、化学的劣化の両方があります。

 化学的劣化ですが、一つは経年による固化、もう一つは潤滑油等による劣化が挙げられます。

 模型鉄道においては後者の方が重要と思います。

 従って、ゴムベルトは明らかな有寿命品であり、交換が必須です。

 だめになったら交換するのが前提の部品なのです。

 しかし、このゴムベルトは直径1㎜、内径20mmという極めて特殊な形状であり、少なくともJIS規格のO-Ringは使用できません。

 従って、切れてしまえばもう走行しないのです。

 さらにゴムベルトを使う以上、張力が必須です。

 しかし、モーターにとって張力は回転抵抗以外の何物でもなく、ましてただでさえ非力な小型モーターにとっては致命的です。

 ということで、「まともな」模型鉄道には絶対に使ってはいけないものなのです。

 さらなる欠点として、この製品はともかく速度が遅いんです。

 これでは一世を風靡した高速列車の面目丸つぶれです。

 この原因の全ては、あまりにも非力で低性能のモーターにあります。

 あまりにも鈍足なので、私は思い切ってモーターをCanon EN-22に交換しました。

 これにより、確かに走行は少しは改善されました。

 しかしそれから数年後、走らせようとしたところ、モーター音はするものの、全く動く気配がありません。

 点検したところ、案の定ゴムベルトが切れていました。

 ゴムと言うよりも、完全に経年固化してカチカチになっていましたね。

 これではどうしようもないので、この際、駆動方式を変えてしまいました。

 詳しくは当方の過去記事当方の過去記事を参照いただきたいと思います。

 しかし、当時としても思い切ったことをしたと思います。

 BR 61 001は動輪がほとんど見えないので、ロッドやシリンダ等は完全に省略されています。

 しかし、無理して2.3m動輪を駆動しているので、揺れてしまいます。

 どうせ見えないのだから、揺れやすく、ゴムタイヤの入手が難しい大径動輪ではなく、先従輪を駆動してしまう方法もあったと思います。

 後方視界を確保するために、炭庫がカットされているのがよくわかります。

 後進用の運転装置も備えていた機関車というのは、珍しいのではないでしょうか?


 詳しいことはわかりませんが、Märklin/TRIXはあまり形状が良くないとの話もありました。ホールベースが異なる??

 こちらはいかがでしょうか?

 上記の通り、Limaは廉価版なので、手すりは一体ですが、形状自体はそんなに悪くないと思います。

 クリーム色がやや明るいでしょうか。

 当時の同社としてはレタリングはきれいな方と思います。

 上記の通り、BR 61 001は両側面でドアの位置が異なるという珍しい機種です。

 私はこのことを知りませんでした。

 

 欧州人にとって微妙なEp. IIbの車両ですが、Märklin/TRIX、Rivarossi/Limaの双方とも問題が大きいようですので、決定版となる製品が欲しいところですね。

 DR BR 18.201から2.3m動輪が転用できるROCOがやらないかな。

 やはり難しいのでしょうね。

 なお、BR 61 002が2014年にRivarossiから発売されています。

 こちらは見たことがありません。

 

2024/6/8 記

 

 

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