フルカ・オーバーアルプ鉄道 FO 汎用電気機関車 Ge 4/4 III 82号機 Uri (Bemo 1260/2)その2

 今回はスイスの南部の山岳地方鉄道フルカ・オーバーアルプ鉄道 FO のGe 4/4形 電気機関車を紹介します。

 FO Ge 4/4は、フルカ・オーバーアルプ鉄道のフルカベーストンネルのフェリー列車用に使用された山岳用電気機関車です。 

<FO Ge 4/4主要諸元>

 軌間:1,000mm、電化方式:AC 11kV 16.7Hz、架空線式、軸配置:Bo’Bo’、全長:12.9m、自重:50.0t、動輪径:1,070mm、定格出力:1,700kW、牽引力:113.8kN、サイリスタ位相制御、最高速度:90km/h

 フルカ・オーバーアルプ鉄道は、スイスの南部に位置する軌間1,000㎜の山岳私鉄であり、本線の東はレーティッシュ鉄道のディッセンス、西はブリークでブリーク・ヴィスプ・ツェルマット BVZと接続しています。

 風光明媚なこの路線は、観光路線として古くから知られており、西のツェルマットから東のサン・モリッツまでBVZ、FO、RhBの3社の路線をゆっくり走る氷河急行が走ることでも有名ですね。

 なお、FOとBVZは、2003年1月1日に合併し、マッターホルン・ゴッタルド鉄道 MGB となりました。

 FOは最大110‰の急勾配を要するので、ラックレールが採用されています。

 FOは急峻な地形を走破しますが、中でも最大の難所は標高2431mのフルカ峠でした。

 開業当時は標高2,160mに高地に長さ1,874mの旧フルカトンネルを抜けておりましたが、トンネルの前後は110‰の急勾配であり、なおかつ豪雪地帯のため、冬季には雪崩被害を防ぐために、鉄橋を取り外す必要があり、長期間、運休になってしまうほどでした。

 さすがにこれには問題が多く、峠全体を潜り抜けるフルカベーストンネルが計画され、1973年に着工し、1981年に貫通、1982年より営業運転が開始されています。

 これにより、通年運転が可能になったほか、トンネル前後を含め勾配が110‰→短期間で30‰へ大幅に緩和されたこともあり、スピードアップが図られました。

 なお、フルカベーストンネルは、完成当時、狭軌鉄道の山岳トンネルとしては世界最長でした。

 こちらで紹介するFO Ge 4/4 は、このトンネルで運転されるフェリー列車用の機関車として、1979年に2輌が作られました。

 フェリー列車というのは聞きなれませんが、欧州の山国ではよく見られる列車形態で、自動車を積んでトンネルや峠を越える列車です。

 道路整備、渋滞回避、安全確保、または環境保護のために、欧州では長大トンネルや峠の車の通行を許可していないことがあり、当該区間を通過するためのフェリー列車が定期的に運行されています。

 このフェリー列車は、日本でかつて運行されたカートレインとは異なり、予約なしで乗れ、また基本的に列車でも車に人が乗ったまま運ばれます。

 FOにおいても、上記のフルカベーストンネルにはフェリー列車が運行されることになりましたが、必要な輸送力はピーク時において両方向でそれぞれ自動車100両/hと見込まれたので、FO Ge 4/4は2輌が調達されました。 

 FO Ge 4/4は同時期に製造されたRhB Ge 4/4 IIをベースに設計されました。

 サイリスタ位相制御で、1時間定格出力1,700kW、牽引力113.8kNを発揮し、18‰で350tの列車を80km/hでけん引します。

 製造は車体や機械部品、台車がSLM、電気部品、電動機をBBCが担当しました。

 独語版Wikiによりますと、なんとRhB Ge 4/4 IIを重連総括制御できたそうです。

 誕生の経緯から、RhB Ge 4/4 IIの姉妹機に位置づけられる本機は、性能や要目はRhB Ge 4/4 IIと似通っていますが、、台車が操舵方式となり、BBC製のスライドベアリング式の駆動装置になっている点が異なっています。

 また、側面コルゲートを持つ角張った車体形状はRhB Ge 4/4 IIとは全く異なっており、同じFOのハイブリッド機関車Gem 4/4や、Deh4/4 91-96形荷物電車に似ていますね。

 なお、Ge 4/4は当初、Ge 4/4 IIIと呼ばれていました。

 FOにはGe 4/4に該当する機関車はありませんでしたが、RhBのGe 4/4 IIの類似機なのでこのように呼ばれたようです。

 しかし、後年発足したMGBではGe 4/4と呼ばれていました。

 本機はフルカベーストンネル及びその近傍での使用に限定されていたため、FOの幹線用機関車で唯一、ラックドライブを持たない形式でした。

 なお、1980年の完成から、フルカベーストンネルの開通までの間、機関車が不足していたRhBへこのままの塗装で貸し出され、アルブラ線の急行列車を牽いていたそうです。

 実際に有名なラントヴァッサー橋を緑のRhBのRhB客車を牽いて渡る本機の写真を見たことがあります。

 1980年に2機作られた本機はNr. 81 Wallis、Nr. 82 Uriという名前が付けられ、クレストが前面中央部に取り付けられています。

 両方とも、沿線の州の名前とのことです。

 本機はフルカベーストンネルのカーフェリー列車牽引に長い間従事しましたが、誕生から37年後の2017年にこちらで紹介する82号機が、そして残った81号機も2023年11月に用途終了、廃車解体されました。

 81号機は、82号機廃車後、取り外した82号機の”Uri”クレストを片方の前面に取り付けて運用されたそうです。

 以上、Wikipedia日本語版 マッターホルン・ゴッタルド鉄道Ge 4/4 形電気機関車、独語版 FO Ge 4/4IIIより引用、参照しました。

 それで模型の方ですが、HOmの量産製品はこちらのBemo製品が唯一の存在です。

 同社の初代カタログに出ていますし、私もかつて1980年代後半に購入しましたので、同社のスイス型HOmでは最初期の製品と思われます。

 ご覧のように今から40年近く前の製品とは思えない出来です。

 ディテールも豊富、レタリングもきれいです。

 こちらの製品の問題点はRhB Ge 4/4 IIと同様、台車枕ばね、ヨーダンパーを取り付けると車体が分解できなくなってしまうことです。

 これは模型鉄道としては失格と思います。

 私は取り外しましたが、こわれそうでひやひやものでした。 

 上記の通り、BemoのFO Ge 4/4はBemoでは最も古いスイス型と思います。

 そのためか、中古市場において最も多く見かける製品でしょう。

 出回っているのは、マブチモーター、ゴムタイヤ装備の初代製品ですが、こちらはゴムタイヤを廃止したその後の製品でした。

 このバージョンはほとんど出回らないですね。 

 上記の通り、私は1980年代後半にNr .81 Wallisを入手しましたが、CRCで塗装が侵されたことや良いレールが入手できなかったことから、手放してしまいました。

 別項に記した通り、3年前にHOmを再開してから、Nr .82 Uriの初代製品を入手しましたが、安価なものの大変程度が悪かったたため、こちらを入手することになりました。

 幸い、こちらも安価でしたが、さすがに最初に入手したものよりは、程度が良くて良かったです。 

 とは言いましても、この時代の共通欠点であるバックミラーの欠品や、前面塗装の乱れなどはあります。

 ということで、模型としては私的には十分な出来と思いますが、何よりもの問題は、なんでGe 4/4なんだってことです。

 既述のように、この機関車はトンネルロコと呼ばれるように、フルカベーストンネルのフェリー列車専用機です。

 ですのでFO唯一のラックギアを持たない形式であり、他の列車は一切牽きません。

 その割には、フェリー列車用の貨車や推進運転客車はどこからも発売されていないのです。

 こんな使い道のない機関車を模型化したのか……、私にはさっぱりわかりません。

 ましてBemoでは最も古いスイス型ですよ。

 一体どうやって売るつもりだったんでしょうか?

 欧州製品にはときどきこういう意味不明なアイテム選択があります。

 遥か彼方の東洋の小国民には全く持って理解不能です。

 また、そんなこともこの機関車が多数中古市場に出回っている理由かもしれませんね。 

 まあ贅沢を言っても、基本、中古頼りの私の場合はどうにもならないので、色々牽かせて遊んでいます。

2024/4/28  記
  

 

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