鉄道模型 HOjで遊びたい

 日本では長い間、16.5mm 1/80の模型が好まれてきました。

 

 世界には類を見ないこの日本独自の模型規格1/80 16.5mm(以下J)ですが、誤ってHOと称されることが多いです。

 ところで、世界の鉄道模型規格は、標準軌1435mm軌間の模型をいかに表現するかというものであることは、紛れもない事実です。

 これは、N、HO、OO、O、1、2の何れも変わりません。

 残念ながら、狭軌のことは全く配慮されていないのです。

 

 日本において、どうして軌間と全く関係しないJという世界唯一の規格が採用されたかについては諸説ありますが、私は日本の鉄道模型界の勃興が対米輸出そのものであり、日本型はアメリカ型のおこぼれから始まったことが一番の原因と思います。

 この際、意図的か、あるいは単に間違えたのかはわかりませんが、軌間16.5mmをHOゲージと称してしまったのでしょう。

 言うまでもなく「HOゲージ」というのは存在しません。

 だってそうですよね。

 16.5mmをHOゲージと言うならば、1/76のOOや1/43.5のOe、1/64のSn 3 1/2だって、HOゲージになってしまいます。

 これらはどう見てもHOではありません。

 強いて言うならば、HOゲージとは「HOスタンダードゲージ」であり、あくまでそういう意味で今でも使われています

 欧米では狭軌など眼中にないから、当たり前過ぎて「スタンダード」が略されちゃったのでしょうね。

 

 さて、欧州においては、16.5mm軌間を用いて、標準軌1435mmをいかに表現するか、長い試行錯誤がありました。

 イギリスでは、模型鉄道よりももっと古い歴史がある4mmスケール1/76 OOが採用されて今日に至ります。

 これを持ってJと結びつけようとする論がありますが、英国型の軌間が1435mmであることは自明の理ですから、狭軌の話は全く考慮されておらず、お門違いと見るべきでしょう。


 他方、欧州大陸ではHOとなりましたが、実は1/82〜1/90のように幅がありました。

 同じBR 18.6ですが、大きなTRIXと1/87のFleischmannでは天と地の差があります。

 もっともTRIXはBR 01の足回りを転用したという話もありますが。

 それにしてもでかいですけど。

  大きなRivarossiと1/87のMärklin。Rivarossiは1976年の製品です。


 DB BR 103。大きいのは1972年初回発売のFleischmann、小さく見えるのはROCOの新しい方の製品で1/87です。

  FSのE 428。大きなFleischmannとスケールのRivarossi。

 Rivarossiは新しい方で、同社の古い製品はオーバースケールとなっています。

 ROCOのDB BR 01 UmbauとRivarossiのSNCF 231Eです。

 別形式ですが、右が大きいのはわかると思います。

 

 これらが現在の3.5mmスケール 1/87に統一されるのは1980年代の後半であり、1/87でないHOはスイスのHAG社が最後まで採用してました。

 HAGの電機。右からRe 4/4I、Re 4/4II、BLS Ae 4/4。BLSはEMAGのHAG Ae 8/8改造の特製品です。

 左右はオーバースケールで、中はスケールです。 

 右のRe 4/4Iは、HAG社最後のオーバースケール製品です。

 右はROCOのAe 8/8。左はオーバースケールのAe 4/4です。

 Ae 4/4を2車体永久連結にしたのがAe 8/8です。

 上から見ると半端じゃない差異がありますね。


 いずれにしても、HO、OOのいずれもが、1435mm軌間の模型の話であり、狭軌は全く考慮されてません。


 そんなHOの世界で初めて狭軌が定義づけられたのは、1950年代のことであり、狭軌模型の規格は基礎となる規格と同じ縮尺を使用し、軌間を変更することになりました。

 そしてその表記方法としては、規格(縮尺)を表す文字の後に軌間を表す数字や文字を付すことに決まったのです。

 実際の例として、1000mm→軌間12mm HOm、750〜762mm→軌間9mm HOe、914mm→軌間10.5mm HOn3、そして1067mm→12mm HOj、HO1067などです。

 なお、期間を表す数字や文字は統一されておらず、複数存在します。例としてHOe、HOn30は同じ762mm、模型9mm軌間を示します。ですが、縮尺は1/87で統一されています。

 この表記方法は他のスケールOO009、Oe等でも採用されています。

 なお、これは標準軌に対して定量的に狭い軌間の模型鉄道の表現であり、シルエットがどうとか言う、所謂ナローゲージとは全く関係ありません。

  HOm     HO    HOe 

  

 以上が世界の定義です。


 では、何故日本が1/80 16.5mmをHOと称したかですが、これはひとえに1/87というものが如何なるものか、知る由が無かったからでしょう。

 1/87と1/80の差異は8.8%です。

 しかし私ももちろんそうですが、人間とは定量的表現が苦手な生き物であり、8.8%という数字を見ただけで、実感するのは甚だ難しいと思います。

 それに模型鉄道の世界には、なんとなれば車輪のフランジや線路の曲率など、それこれ8.8%なんてもんじゃない誤差が存在しますし、上記の通り、とうの欧州でさえ1/87でないHOが存在しました。

 だから1/80は1/87の誤差範囲内であると勝手に決めてしまったのでしょうね。

 軌間1067mmのことなんかあたかもなかったかのように。

 まあ、それはもう70年(あるいは戦前)の話なんで、2023年になってもそんな間違いが通用するはずもありませんが。

 

 それでHOの日本型 1/87 12mm(以下HOj)は、なんと今から40年以上前の1980年頃に既にメーカー製品が供給開始されておりますが、今に至るまで、殆どの趣味人は、HOjの模型を見たことがないんじゃないでしょうか?

 見たことがないのだから、どういうものかわかるはずもない。

 8.8%の差異が一体どれくらいのものか、実感できる方は殆ど居なかったと思います。

 その上、HOjを志向される方は、強い信念と自負をお持ちの方が多いこともあり、それ以外の多くの趣味人にとって、HOjとは、非常にこだわりの強いごく一部の方が嗜んでいる特殊な規格だったのでしょう。

 

 16.5mmと12mmではこれだけ違います。

 しかし、2023年、あくまで形だけですが、1/87を実感出来る模型が登場しました。

 そしてこちらでも何度か当方が示しましたように、少なくとも2023年時点において、1/80と1/87は同列には比せない全く別の規格と言えると思います。

 

 

 ところで日本の模型鉄道は世界一、車両に特化した模型と思われます。

 実際、欧米では特定番号機という楽しみ方は、個人レベルはともかくとして、大メーカーではあまり取り上げません。

 また細密なディテールを実現するロストパーツは、日本が世界一普及していると思います。

 そんな車両模型にこだわりを持つ日本において、あまりにも実物とかけ離れた下回りや軌間がかくも長い間、意図的に無視された理由は私には全くわかりませんが、当然の帰結として問題と思う人が現れて、Jの車体スケール1/80を採用して、軌間をスケールとしたJM 1/80 13mmという規格がHOjよりも前に誕生しました。

 当然のことながら、JMはJに比べると実感が遥かに向上しています。

 模型鉄道は上から見ることが圧倒的に多いですが、明らかな違和感がありません。

 そしてJMの最大の利点は、基本的にJ製品が転用できることです。

 この点、全てをJから転用できず新製する必要があるHOjと比べると、新たに用意するものが少ない分、大幅なコストダウンが図れます。

 特にKATOやTOMIXのような量産製品を転用できることは、私のようなものにとっては他に代えがたいアドヴァンテージです。

 反面、問題点として、長らく完成レールがなかったこと、そして最大の問題として、Jの軌間を変更しただけでは、正確なスケールモデルにはならない場合があります。

 この原因は、Jが実物の124%に拡大された軌間を持つため、単に車輪だけでなく、台車や下部車体に多大なる悪影響を与えている場合が多いからです。

 わかり易い例では、EF57のような旧型電機のデッキの幅、流線型C55やEF55の下部車体、蒸気機関車のシリンダーや台枠、下回り、テンダーの幅などです。

 これも感覚ではわかりにくいですが、幸いなことにネットで正当な比較を行っている写真が見られますので、ぜひ一見をお願いします。

 従って、いくら軌間がスケールになっても、Jを転用する場合、バランスの悪い下回りはそのままですので、細密化の進んだ現在では満足が行かないことも多いと思います。

 大変残念なのですが、今の日本では真のJMモデルはあまり存在していないようで、わずかに存在する蒸気機関車は、当然のことですが、HOjと同様の大変高額なものとなってしまっています。

 

 上記のように、種々問題のあるJMではありますが、それでもJに比べたら遥かに優れたスケールモデルと思います。

 しかしHOj同様、大変残念なことに、HOjに比べ、遥かに実現性が高いはずのJMでさえ、これまた日本ではあまり知られていない日陰の存在のように感じます。

 どうしてJMのように優れた規格が、誕生から50年以上立っているにも関わらず、何時まで経っても陽が当たらないのか、模型界の異端者である私にはさっぱりわかりません。

 私は決してJを全否定するものではありませんが、Bemoとは異なり、なぜKATOやTOMIXがJとJMのコンパチを完全否定しているんでしょうか?

 理解に苦しみます。

 この両社がJMを選択可能にすれば、一気に普及するはずですし。

 実際、調査の結果、私のように16.5mm軌間を用いて、欧州形やアメリカ形とJを共用している人は日本において圧倒的少数であることは明白です。

 少なくともNから大きなスケールに切り替える人にとっては、JでもJMでも何ら障害はないはずです。

 むしろ圧倒的にスタイルがよく、理論的には急カーブ対応可能なJMが、Jに劣ることは皆無と思いますし。

 ましてNから大スケールへ転向される方は、Nにはない大きさや実感を求められるでしょうから。

 何度も言いますが、Jには根強いファンが居ることも紛れもない事実ですから、簡単に実現できるJとJMのコンパチモデルはぜひ両社には実現してもらいたいです。

 なんとなればJM対応の車輪やギアを売るだけでいいのですから。

 これでは不満が残るのは事実ですが、Jという長い歴史のある存在を完全無視することも出来ないと思いますので。

 反面、0番などは一気に代替わりしてしまいましたので、JMが普及すれば、Jの転用ではなく、初めからJMを目指した製品も供給されるかもしれませんけど。

 

 で、日本型を志向する場合、HOjとJMのどっちを選ぶかというと、これは完全に趣味の問題でしょう。

 HOjとJMは8.8%の差異です。

 従って、IMONの優れた完成レールの所要半径はHOj 732mm、JM 789mmとなります。

 直径114mmの差異は私にとって、とても大きなものです。

 私は狭い場所で遊ぶ必要があるし、何と言っても欧州型HOとの正確な比較が最大の目的なので、HOjをやりたいです。

 ですが、上記のように日本におけるほぼ全ての趣味者が日本形オンリーであり、欧米型には興味はないと思いますので、1/87という世界統一縮尺に対して、こだわることは全くないでしょう。

 そうであれば、問題はあるにせよ、既存資産が転用でき、実現性に天と地の差異があるJM一択となると思います。

 ただし、あくまで2023年現在の話ですが、上記の通り、初めからJMとして設計された製品は数少ないため、特に狭軌感を求められる蒸気機関車については、積極的にこだわりの極致の製品を供給しているIMON製品が存在するHOjの方がスケールモデルとしては満足できると個人的には思います。

 

 そうは言いつつ、元より大変小さな市場ですから、規格の乱立にいいことは全く無いので、本当はHOjかJMに統一して欲しいと言いますか、逆に統一出来ないことが、いつまで経っても戦後、大変苦しい時代にやむを得ない事情から誕生したJという暫定的な規格が栄える原因のような気もしています。

 

 でも今や戦後は遠くなりました。

 山のような問題があるにしても、日本は確実に豊かになりましたし、模型業界も発展しています。

 1950年代の模型鉄道と今日の製品は、全く比較できないような飛躍的進化を遂げていると言えるでしょう。

 ですので、あくまで私個人の意見で、どなた様にも強制するつもりは皆無ですが、私は正確なスケールモデルで遊びたいと思うのです。

 それは特別は事ではないはずです。

 だって欧州大陸もアメリカも軌間と車体が同じスケールの模型で遊んでいるのですから。

 それもごく一部の方だけでなく、普通の人がです。

 何故、先進国の仲間入りをした日本だけが、そんな当たり前のことが出来ないのか。

 もしやるにしても、機関車一台が40万円もする超高級製品しかない、ごく僅かな富裕層の恵まれた方しか楽しめない極めて特殊な世界になってしまうのか。

 私個人としては不思議でならないのです。


 論より証拠です。

 実際にHOjやJMとJを並べて比較してみて下さい。

 きっとその違いには驚かされると思いますよ。

 J(KATO)、HOj(IMON)の比較

 HOjとJの違いがわかると思います。

 と同時に、同じワム80000でも、メーカーにより表現がかなり違いますね。

 なお、両方ともプラ製ですが価格はすごい差があります。KATO 1,980円、IMON 6,600円(ノーマル仕様、写真はシンガーフィニュッシュ仕様 7,260円)

 両方とも同じプラ製品です。

 数が少ないということは、本当にコストアップになってしまうんですね。

  

 KATOのワム90000とIMONのワム50000。

 この両車の実車は確か同じサイズと思いました。

 IMONのワム50000はキット組ですが、元プレスアイゼンバーンの1980年代発売のプラキットで、車輪まで含まれるのに、僅か1,540円という大変お買い得な製品です。

 この値段では今どきNも買えないですよ。

 出来の方は今でも通用すると思います。ぜひ作ってみて下さい。お勧めします。

 意外なのは下回りの幅で、IMONのワム50000の軸受は車体いっぱいに広がっていますね。


 いずれにしても、HOjやJMについては知られていないことが最大の弱点と思います。

 全部1/87です。これが正しい比較ですね。


 ですので、HOjやJMについて、より多くの方にJと比べた明白なアドヴァンテージを知って欲しいと私は思います。

 良きにつけ、悪しきにつけ最も大切なのは情報です。

 正しい知識です。

 

 幸い今はネット時代であり、誰でも情報発信できる時代です。

 私にできることなど無いに等しいですが、これからも情報発信に努めたいと思います。

 

2023/12/3 記 随時修正



 

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