デジタル考2 メリットとデメリットを把握して採用を決めましょう
前回の記事の通り、世界の模型鉄道界はデジタルへの移行が急速に進行しています。
翻って日本では、世界の潮流には反し、デジタルはあまり広まっておりません。
とは言うものの、主として外国型を志す方など、少しではありますが、デジタルが広まってきたのも事実です。
そんなことに伴い、デジタルに興味を持ったり、始めてみようかと思う方もいらっしゃると思います。
前回の記事は、そんなみなさまの足を引っ張ってしまうかもしれません。
でも、これも一つの事実ですので、異論の一つとしてを書きました。
と言うのも、デジタルというのものは得られるメリットも大きいですが、リスクも相当大きいからです。
私のトラブルが稀有なもので、他にはないというのならまだしも、私が見た皆様のブログに、ちょくちょく新品不良など、ユーザーの取り扱いに起因しない本質的なトラブルの話が書いてあります。
残念なことに定量的ではありませんが、デジタルにはトラブルが起こると思った方が正解と思います。
しかし、このトラブルについてどのくらいの情報が流れているかといえば、少なくとも修理できなかったという記事はほとんど見たことはありません。
あくまで個人的な見解に過ぎませんが、デジタルに賛成の方は、こういこうことを表に出したがらないか、あるいはトラブルがあって当然と考えているように思います。
確かにデコーダーを焼いて当然みたいな記事は見たことありますし。
また穿った見方かもしれませんが、そういう「苦難を乗り越えてきた」自負が過ぎて、「トラブルごときでがたがた言うな」って感じの方も正直居ますよね。
まあ、こういう方は、趣味の世界には概して散見されますけどね。
いずれにしても、デジタル賛成の方は、得られるメリットが失われるコストよりも多いと信じているんじゃないでしょうか?
それはわからなくもありませんが、そう思わない人にもいるわけですし、何よりもデジタルなんか知らない人が圧倒的に多数なのですから、やはり功罪併せて「事実」を伝えることが大切なのでしょう。
どうもデジタルでなければならないとか、デジタルなんかだめだという、結論ばかりが横行して、どうして良くてどうしてだめなのか、そこへたどり着くまでの判断材料が少ない気がします。
少なくとも、メーカーや販売店、そしてその代弁者たる趣味誌は、いいことしか言いませんから。
最も私は日本で新品を買ったことがないので、自分で経験したトラブルについて、販売店に聞いた結果に過ぎませんけど。
でも、デジタルに関して書かれた本には、すぐに壊れることがあるとか、修理できないという記述はなかったように思います。
いずれにしても、KATOが手を引いたのには絶対に理由があるはずです。
当方、前稿のようにメリットは有るにせよ、あんなに高額であんなに壊れやすく不安定なものを、日本のように消費者が厳しい国で販売するのは営業的に困難と判断して何ら問題ないと思います。
あとこれは私個人の思い込みかもしれませんが、デジタル推進派の人って、デジタルに変わるべきだとか、アナログは時代遅れだとか、どこかアナログを見下したところがありますよね。
以前のゲージとスケールという問題もそうですが、何か指標を持って比較するのならともかく、そうでない場合、優劣はつけられないはずです。
確かにサウンドとかファンクションという指標で比較するのなら、明白に優劣はあると思いますが、コストや信頼性、修理の問題、製品寿命等、切り口を変えれば、デジタルのネガティブはいくらでもあります。
少なくともスケールモデルとして捉えた場合のJとHOjとは異なります。
まして模型規格としてのHOjには、デジタルのようなリスクはありませんので。
どちらをとるにしても、メリット、リスク、その両方を広く俯瞰して、個人が判断することが大切であり、色眼鏡のかかった偏向情報では正しい判断は出来ません。
その上で、個人的な希望を言わせてもらえば、TRIXのようにデジタル機しか存在しないというのは迷惑です。
直流二線式に関しては、ROCO等、多数の欧州メーカーのように、デジタルを選択しない自由は残しておいてもらいたいと思います。
他方メルクリンですが、交流の三線式は、直流二線式とは状況が全く異なります。
と言いますのも、直流二線式の場合、単に走行させる場合、モーターのみあれば可能ですが、交流三線式はモーターだけでは模型鉄道としては成立しません。
その理由ですが、永久磁石を用いた直流モーターは、給電の極性を切り替えることにより、前後進を変更することが出来ますが、交流には極性がないため、モーターは一方向にしか回転しないので、そのままでは前後進を切り替えることが出来ないのです。
家庭用電源は単相交流なので、降圧しても産業用に使われる三相交流の誘導電動機は使えません。
一般の直流モーターに交流を流すと、永久磁石で構成される固定界磁の極性が一定なのに、回転するコイルのNとSの極性が周期的に変わってしまうため、回転しません。
しかし、この固定界磁を電磁石にすれば、固定界磁のNとSも同じ周期で変わるので、モーターは回転します。
更に、誘導電動機のように電圧に関係なく回転数一定ではなく、電流値に応じてモーターの回転を変化させることが出来るのです。
メルクリンでは、この直流モーターのようにブラシを持つユニバーサルモーターという交流でも直流でも使えるモーターを長年に渡り、使用してきました。
このモーターは、ブラシが減る問題はある一方、堅牢でかつ高速回転できることや高速回転時にトルクを得られる長所がある一方、固定界磁が電磁石のため、電流値の低い低速時にトルクが不足するため、安定した運転が難しいという問題があります。
そして最大の問題は上記の通り、回転方向が一定であることです。
交流のユニバーサルモーターを逆転させる場合は、電路の方向を変える切り替えSWが必要になります。
そこで、大昔の日本製0番では、車体に切り替えSWがついて人間が切り替えておりました。
しかしこれでは車両が人間の手の届く範囲にない限り、前後進を切り替えることが出来ません。
いくらなんでもこれでは操作性が悪くてお話になりませんね。
そこで、簡単に前後進を切り替えられる直流モーターへ切り替わっていくのですが、メルクリンは固定界磁のコイルを正巻と逆巻きの2つにして、電磁石を用いたスイッチで切り替えて選択することにより、モーターの正逆回転を切り替えるようにしました。
これは画期的な発明でした。
メルクリン V200 のユニバーサルモーター(左)と機械式逆転器(右) 固定界磁が電磁石になっているのがわかると思います。 昔、おもちゃの中古屋で799円で買ったかなり状態の悪いジャンクでしたが、問題なく動作しました。 |
と言いますのも、この装置(逆転機といいます)は電磁石で動きますが、当然、給電されておりますので、走行電圧で電磁石が働いてしまっては、走行中に勝手に方向が切り替わってしまいます。
そこでメルクリンは、走行用の交流電圧16Vでは動作せず、切り替え用の24Vでのみ動作する逆転機を開発しました。
この逆転操作は、パックから行いますが、操作はパックの0よりも下になっており、安全のため、長時間電流が流せないように、バネでつまみが戻るようになっています。
結果、この機械式の逆転機を装備した車両は、一旦停止した後でないと逆転できないので、実感的という話もありますね。
私は電気のど素人ですが、それでもこの逆転機はすごいと思います。
だって、走行中コイルには常時通電されておりますが、過熱しません。
更に言うと、逆転操作では瞬時高電圧がかかりますが、一般には車両はピクッとするだけです。
電球は瞬時眩しく光りますが、すぐに切れてしまうこともありません。
何よりも電磁石の切り替え操作はスムーズです。
逆転機は流石に昔のメルクリンらしく、大変堅牢なものですが、それでも経年劣化により、バネを引っ掛けている透明な樹脂が割れてしまうことがあり、古い中古品など復元コイルばねがなくなっている場合がありますので注意して下さい。
いずれにしても、ユニバーサルモーターを使用した三線式交流の模型鉄道には、この逆転機が必須なのです。
ということで繰り返しになりますが、メルクリンでは長らく、このユニバーサルモーターが使われてきました。
昔の直流モーターは巻線密度や方法そして何よりも永久磁石の磁力密度が低いことから、モーターのトルクが低いものでした。
その点、メルクリンのユニバーサルモーターは、高電圧がかかることから電磁石の威力を発揮して、高速回転領域では大変安定した走りを見せます。
一方、上記のように固定界磁が電磁石であることから、磁力は電流値のニ乗に比例するため、電流値の低い定速領域ではトルクが出ないため、実感的な走行は望めません。
一方、昔は大型・非力だった直流モーターは、一般用途が桁外れに多く、また自動車など主要産業で使用されることから、強力な磁石の開発や巻線密度向上などの技術革新により、大幅なコンパクト化を達成し、また性能や信頼性が見違えるように上昇しました。
他方、量産効果が大きいことからコストダウンも図られています。
そんなこともあり、1980年代の終り頃から、ユニバーサルモーターの牙城だったメルクリンにも、SBB RCe 4/4やミシュランレールバスなど、直流モーターを搭載した機種が現れ始め、その後も増えて行きました。
そして同社がアナログを全廃した頃、直流モーターに切り替わっています。
一方、ドイツでのHOはメルクリンに代表される交流三線式が圧倒的に強かったので、FLM、ROCO、Lima、Rivarossiなどの直流二線式のメーカーも、ほぼ全て三線式対応車両を発売しておりましたが、HAGなどの例外を除き、当然のことながら、直流モーターを採用していました。
交流の環境では、直流モーターをそのまま使うことは出来ません。
まず、交流を直流へ整流することが必須です。
更にその上で、上記の電磁石操作により、モーターの極性を入れ替える必要がありました。
このあたり全く詳しくないので間違い前提でお話しますが、1970年代のRivarossiのDB BR 118の交流仕様は、確かメルクリンのような電磁石式の逆転機と、トランジスタを用いた整流器を装備していたように記憶しています。
しかしメルクリンも含め、殆どのメーカーは、整流部分と逆転操作部分が一体になった電子式逆転機を採用しておりました。
(少なくともMärklin SBB RAe 4/4やミシュランレールバス、同社のTRIX製品の三線仕様BR E 70、交流仕様のFLM P.St.E. S 10、Rivarossi BR 59、ROCO SBB Re 460は間違いありません)
この電子式逆転機の構造はわかりませんでしたが、電子部品に対し、瞬時とは言え高電圧をかけることもあり、機械式逆転機のような信頼性はなく、壊れやすいものでした。
実際、私も破損の経験がありますし、同様な情報を見たことがあります。
長々と書いてきましたが、交流三線式車両には、逆転機が必須なのです。
そしてこれこそが三線式にはデジタルが必定だったことの背景になるのではないでしょうか?
つまり、
交流を使う限り、どんなモーターを使おうとも逆転機が必須
↓
直流モーターの方が遥かに性能が高くて、コンパクト、コストも安い。
↓
直流モーターを使用するには、整流の必要があるため整流装置を持たない機械式逆転機は使用不可。
↓
整流装置を持つ電子式逆転機の採用
↓
逆転操作の高電圧が電子式逆転機の破損原因となる。
↓
デジタルにすれば、逆転時の高電圧は不要。直流モーターも採用できる。
↓
ましてデジタルは、アナログでは成し得なかった様々な取り組みを実現できる。
↓
デジタルの採用
という図式になるように思います。
なお、アナログメルクリンの逆転操作は、瞬時とは言え、高電圧がかかりますので、デジタルにとっても致命的な破損をきたすことが多いようです。
あくまで私が聞いた範囲の話ですが、
・mfxデコーダーはアナログ逆転操作で壊れることがある。(閉店したEGSでO氏に聞いた話)
・アナデジ共用配線を行っていたところ、操作ミスで両者が同時に接続され、誤って逆転操作を行ったところ、一瞬でCS2が壊れた。(2013年にメルクリンデジタルのベテランから聞いた話)
このように考えますと、直流モーター採用で整流が必須な以上、電子部品を使わざるを得ず、その場合、24Vの逆転操作を回避するにはデジタルしかなかったというのは、結果論かもしれませんが、正しい判断のように思えます。
電子式アナログ逆転機とデコーダーのどちらが壊れやすいか、残念ながら信頼性の高いDATAは持ち合わせておりませんが、当方の経験では間違いなく両方壊れました。
電子式アナログ逆転機はわずか数台しか無いうちの2台が壊れています。
時代には大いに逆行する以外の何物でもありませんが、昔のRivarossiのような、電磁石式の機械式切り替え装置を持った直流逆転機が望ましいです。
これならば壊れにくいような気がします。
ただし瞬時とは言え、整流部分を高電圧に耐えるようにする必要があるので、難しいのかもしれませんが。
いずれにしても、直流モーターを使う以上、交流ではたとえアナログであっても整流機能と逆転機能を持つ電子式逆転機が必須です。
この電子式逆転機は高額であり、詳しいことは知りませんが、走行用デコーダーと比べても大差ないように思います。
であるならば、制御装置には天と地の差異があるものの、交流三線式で直流モーターを使う以上、アナログでもデジタルでも車両側のコストには大きな差異はないことになります。
さすれば結論として、三線式の場合、どちらを選んでもリスクはあるし、アナログ逆転方式の電子逆転機は本当に壊れやすので、デジタルを選定した方がまだましということになりそうです。
長々と書きましたが、この点が直流二線式と決定的に異なる点ですね。
メルクリンデジタルは大変高額ではありますが、大変優れたシステムです。
車両模型として見た場合、R360の問題があるため客車のフルスケールモデルが存在しないという欠点を除けば、大変優れたものが多いと思います。
特に機械部品の精度やダイカスト製の車体は、他を圧倒していると言えるでしょう。
そしてもっとも特筆すべきは、システムとしての優位性であり、現在だったらCS3を頂点とした線路から始まる多彩な制御系は他のデジタル製品の類を見ないものと思います。
ただし、今まで何度も書いてきましたように、そんな優れたシステムでも問題はあります。
中でも個人的にもっとも問題と思うのは壊れることです。
昔のメルクリンには「堅牢」という神話がありました。
上記の通り、機械部品には定評がありますし、また低速性能はあまり良くないもののユニバーサルモーターは安定した性能を発揮します。
しかし、あくまで個人的な意見ですが、デジタル時代となった今、過去の定評は雲散霧消したと思います。
それでも他のデジタル製品と比べればまだましなのでしょうが。
以前の記事にも書きましたように、欧州ではデジタルの信頼性・安定性の追求や、コストダウンということは殆ど問題になっていないように感じます。
これは自動車を見ればまさにその通りですが、欧州の文化が壊れて当たり前、壊れたら修理するということが前提になっているからかもしれません。
と言うことでメルクリンを楽しむための必須条件、それは故障修理対応だと思います。
メルクリンの修理体制は数ある模型鉄道メーカーの中で最も優れたものと聞き及んでおりますので、もしドイツやヨーロッパ在住で、ドイツ語が話せるのだったら、全く問題はないのでしょう。
また同好の士も圧倒的に多いので、文句なくお勧めできます。
しかし誠に残念ながら、私個人が実際に直面し、対応していただいた極めて狭い範囲ではありますが、ここ日本では話は全く別です。
日本国内には修理拠点がありません。
従って、トラブルが生じた場合、修理するにはドイツのメルクリン社へ送る必要がありますので、当然のことながら多大なコストがかかります。
また、これも実際に経験しましたが、日本の販売店で購入したもの以外の修理は、基本受けてくれません。
これとて基本は日本国内で修理するのではなく、ドイツに返送するとのお話でしたので、個人の資格でドイツに送るよりも手数料がかかるかもしれません。
と言う事で、日本におけるメルクリンの修理については、現状、難しいのが実情なのです。
従って、メルクリンを日本で楽しむには、他のデジタル同様、トラブル時には自ら対応する以外にはなく、あくまで自己責任が原則です。
私のように、これを甘受できないタイプの人間は手を出さない方が無難と思います。
そしてこれは修理体制がもっとも整っているメルクリンの話ですので、それ以外のメーカーはいよいよ修理は難しいことになりますので、何かあっても自分の力で何とかする以外には無いと思います。
これが安価なものだったらまだしも、デジタルのように大変高額な商品が、簡単に壊れてしまい、また直すのも相当困難でかつコストがかかるというのは、少なくとも私の模型趣味感には合いません。
同じことを何度も書いて申し訳ありませんが、やはり、相当な技術と知識を持ち、語学力に長けていて、裕福な方で、かつデジタルによって得られる何かに価値を感じ、そのためには多額の出費を厭わない方以外は、手を出さない方が無難だと私は結論付けます。
2023/3/21 記
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