日本型模型鉄道 HOjについて考えてみました


 前回に続き、HOjについて、思うところを書こうと思います。

<はじめに・注意事項>
 まず本稿ですが、模型鉄道におけるHOjという規格について、私DB103の極めて個人的な考えを記すものです。
 HOjというジャンルに話が及ぶかもしれませんが、あくまで主題は規格の話です。

 何よりも私個人の体験を元にした、個人の考えに過ぎません。
 もちろん「意見」です。
 こうではないかとか、かくあって欲しいという願望も書きました。
 しかし、これはあくまで私個人のものであり、どなた様に強制するつもりもなければ、賛成していただくつもりも皆目ありません。
 私の中では正しいと思っていますが、他の方にはそうでない可能性が高いです。
 現状認識も含め、模型鉄道界において、常に異端の位置にあるDB103の偏った考えです。

 一方、個人の考えは尊重すべきであります。
 そもそも個人の意見に正誤はないし、好みに起因する不毛な正誤論争をする気持ちは、これっぱかしもありませんので、本稿については指摘も反論もお受けしません。
 こんな意見もあるんだな、くらいの軽い気持ちで読み流していただくようにお願いします。

 そこを受け入れてくださる方のみ、お進み下さい。
 そうでない方は不快な思いをする可能性がありますので、誠にお手数ですが、ブラウザバックをお願いします。

おことわり

 本稿では、J=1/80 軌間16.5mm、JM=1/80 軌間13mm、HOj=1/87 軌間12mmの模型を指します。

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       HOm          HO          HOe

 

 今回はHOjについて、私個人の考えを記したいと思います。

  

 当方の前記事の通り、日本ではNよりもずっと長い歴史を持ち、Nの次に普及しているJですが、実はJについて定められた規格や文書は存在しないようです。

 そのことが、結果としてHO=Jという誤った認識を広めてしまっているように個人的には思います。

 

 前回も記しましたように、HOとは1フィート=3.5mm換算の模型です。


 これを縮尺に直すと、304.3/3.5=87.08571429……となりますが、使いやすくするために小数点以下を略した1/87が採用されています。

 そしてこの縮尺の模型鉄道は、日本と英国を除いた世界で最も普及しております。

 

 繰り返しになりますが、2023年時点において、欧米ではHOとは3.5mmスケール(1/87)のことを指します。

 しかし、1930年頃にHOが誕生して約100年、ここへたどり着くまでの道のりは、技術論やその他の思惑もあり、実に複雑であり、決して平坦ではありませんでした。

 少なくとも私のようなものにはさっぱりわかりません。

 しかし、数々の論争や試行錯誤を経て、誕生から約50年が経過した1980年頃、ようやく欧州において、HOの縮尺が統一されました。

 私が知る限り、最後まで3.5mmスケールを受け容れなかったのはスイスのHAGですが、その頃、同社においても、旧来の車体1/82、軌間16.5mmの製品の新たな開発は中止され、新たにNew Generationという1/87モデルが供給されるようになったのです。

 残念なことに私は、アメリカ型について全くわかりませんが、少なくとも量産模型の分野では、欧州よりもずっと前にHO=3.5mmスケールの認識で共通化されているはずです。

 

 いずれにしても、現在、1/87スケールのことをHOと称します。

 これは模型鉄道だけではありません。

 ミニカーやAFV、あるいはフィギュア、建物のような模型鉄道とは必ずしも関係ないアイテムも、その決まりになっています。

 

 ここまで書けばおわかりいただけるかと思いますが、HOとは16.5mm軌間のことを表すものではありません。

 従って、HOゲージというものは存在しないのです。

 HOとは縮尺の名称であり、軌間の名称ではありませんので。

 世界の鉄道の標準軌は1435mmであることは自明の理ですから、その1/87である16.5mmが、HOにおける標準軌です。

 これがHOゲージという「誤った」名称で日本に伝えられてしまったのでしょう。

 今日的意味合いでは、HOスタンダードゲージなら、誤解を生むことなく、何ら問題はなかったのですけど。

 

 一方、世界には様々な理由で標準軌を採用していない国もあります。

 これらの中にはロシア、スペイン、ポルトガルのような広軌もあれば、標準軌よりも狭い狭軌もあります。

 狭軌の方が採用例が多く、日本やNZのような1,067mm、ドイツ、スイス、フランスによく見られる1,000mm(メーターゲージ)、アメリカやイギリスのマン島鉄道、そしてかつての西大寺鉄道の914mm(3フィートゲージ)、世界中で採用例の多い762mm(2フィート6インチ)、オーストリアのナロー・ボスニアゲージ(760mm)、ドイツザクセン・ヴュルテンベルクのナロー(750mm)、世界中で採用例の多い610mmなどなど。

 

 でもって、HOとは1/87です。

 他の基準もありますが、何よりもまず1/87であることが大前提です。

 逆に言うと、1/87でないものは、HOではありません。

 左HOj 1/87(デアゴ)、右J 1/80(TOMIX)


 実にわかりやすく、誰にでも理解できる「規格」です。

 

 と言うことでHOである以上、車体はもちろん、軌間も1/87でなくてはなりません。

 

 故に、HOでは上記のように実物の様々な軌間に対応した、種々の軌間を用意しなくてはならないのです。

 実際にHOで実用化されている軌間として、HOm/HOj 12mm、HOn3 10.5mm、HOe 9mm、HOf 6.5mmが挙げられます。

 あれ、上に比べて種類が少ないじゃんと思う方もいらっしゃると思います。

 これは、例えば762mmと760mmを1/87にした場合、それぞれ8.76mm、8.74mmとなり、こんなものは工業的な誤差範囲内なので、両方ともHOeとして9mmのレールを使っています。

 750mmも8.62mmですが、同じHOe 9mmです。

 610mmと600mmは両方とも、HOf 6.5mmを使っているようです。

 一方、mゲージは11.49mm、1067mmは12.26mmです。

 両者の差は、0.77mmと無視できる範囲ではないかもしれませんが、現状、現実解として12mmが採用されています。

 実際、ノギスでも当てない限り、この差異を目視で見分けることが出来る方は少ないと思われます。

 

 一方、HOの広軌について、私が知る限りでは、量産模型は無いように思います。

 これは広軌を採用している国の模型鉄道の趣味人口が少ないことも挙げられるのかもしれませんが、詳しいことはわかりません。

 

 ここで大切なことは、確かに種々の事情で誤差は存在しますが、これらの模型は全て1/87が大前提であり、はじめから1/87を否定したものはHOではないということです。

 

 いずれにしても、HOとは縮尺にかかわる基準ですので、実物の軌間により模型のレール幅を決めるという決まりになっています。

 

 以上を受け、HOでは日本の在来線1067mmの模型のレール幅として12mmが採用されています。

 

 HO 1067、HO 3 1/2、HOjなどと言われていますが、要は日本の在来線 軌間1067mmの1/87の模型鉄道です。

 

 それで本日の主題はこのHOjについてです。

 話は変わりますが、こちらでも何度か書きましたように、私DB103にとって模型鉄道は後発の趣味です。

 もともとは1/72、1/144の飛行機、1/700艦船、そして1/35から始まって1/76、1/87AFVへ至るスケール・プラモデラーでした。

 腕の方は全然ダメでしたけど。

 積極的に活動していたのは小学校から大学までの12年くらいと思いますが、作品は相当作りました。

 その前にはミニカーとかもありましたが、いずれにしても私の場合、これがベースになっております。

 そんな状態ですので、私は模型鉄道界のしがらみというものとは一線を画しておりました。

 詳しくは書きませんが、独特の雰囲気には正直、あまり良い印象は持っておりませんでしたし、外の世界から眺めていると首を傾げざるを得ないことが、多々ありました。

 

 そんな疑問の一つが、どうして日本の模型鉄道は、軌間がスケールではないのだろうかということでした。

 だって、スケールのプラモデルで、翼が1/64で胴体が1/80の飛行機や、履帯が1/29で車体が1/35の戦車は、創世記ならいざ知らず、1970年代の製品にはありませんから。

 単純に不思議でなりませんでした。

 まして世間的には「鉄道模型」はプラモデルやその他の模型の中で「趣味の王様」とされる一段高い存在であり、庶民が簡単に楽しめるようなものではありませんでしたし。

 それが1970年代はじめのことです。

 

 あと実体験として、OOスケール(1/76)とHOスケール(1/87)は絶対に別物だと思っていました。

 これは両方組んだから間違いありません。

 ROCOのHOの大昔のⅣ号戦車と、エーダイOO(Airfixのコピー)は大人と子供くらいの差異があります。

 もっともROCOのごく初期のⅣ号戦車は、HOと言うには小さすぎますけどね。

 また、1/72の長谷川やESCIの製品と1/76のAirfixやMatchboxとでは、同じ車両でもずいぶんと大きさが違うので、これらもやはり別なんだなって感じで見てました。

 そういう意味で私は異端者なのでしょうね。

 

HOm             16番            HOe

 

 

 さて、そんな私にとってJの謎は、大きく分けて2つです。

 

 その一つはなぜ1/80を採用したのかということです。

 

 タミヤの1/35は欧米で一般的な1/32(9.5mmスケールまたは3/8インチスケール)を、LSの1/75、ニチモやフジミの1/70は、1/72(1/6インチスケール)を、それぞれ十進法できりの良い数字に直したと言われています。

 それと同じ考えならば、HO1/87を一気に1/80にする前に、1/85あるいは1/90にしても良さそうです。


 でも、そうはなっていませんよね。

 これについて私個人の考えでは、日本の鉄道模型のはじまりがアメリカ型のおこぼれだったことが原因と思います。

 アメリカの機関車は大きいので、そこから転用した車輪や部品の大きさから逆算して1/80が採用されたんじゃないでしょうか?

 実際、大昔持っていたJのトビーの最初期の8620の動輪は、カウンターウェイトの直線が曲線になっており、アメリカ型の部品転用を思わせるものでした。

 まだ日本人が鉄道模型なるものを楽しむことが出来なかった貧しい時代、既にアメリカ輸出用の日本製真鍮製模型は隆盛を極めておりましたので、当時としてはやむを得ない解決策だったのでしょう。


 そして、なぜ1/120、1/160でなかったかというのは、もっと簡単であり、世界各国と同様、当時そんな小さなモーターがなく、その時点ではこれらのスケールは、HOのように確立された世界ではなく定まっていなかったからですね。

 現に日本と同じ、軌間と車体の縮尺が合っていない車体4mmスケールOOの英国型は、車体を1/87にすると当時のモーターが入らなかったことが原因です。

 しかし英国が、なぜ1/87とは相当大きな差のある1/76スケールを採用したかというと、英国では鉄道模型よりももっとずっと昔からあるいわゆる鉛の兵隊に端を発するOOが、一般的な縮尺だったからではないでしょうか?

 そういう意味で、1950年代後半から1960年代にかけての日本では、1/87に近い縮尺では、上記の1/72及びその近辺がありました。

 しかし、模型鉄道の世界でこれらのスケールが試行されたり、採用されたという話は一切聞いたことがありません。

 となりますと、やはり、アメリカ型の部品を転用するために便宜的に採用されたという説がもっとも有力だと思います。

 もっとも、昔から模型鉄道の人はプラモデルを見下したところがありましたから、1/72なんか初めから眼中にもなかったのかもしれませんけど。

 

 もう一つの疑問、それは1/80を採用したのにもかかわらず、なぜ軌間16.5mmを採用したかということです。

 

 これは、もちろん当時、16.5mmのレールしかなかったからでしょう。

 今から70年くらい前、敗戦の傷跡がまだ生々しい頃、日本型の部品なんかなく、上記のようにアメリカ型の部品のおこぼれに預かっていた時代に、12mmや13mmのレールなど開発したところで、そんなもの誰も買えないから商売として成り立たない。

 恐らくこれ一択でしょう。

 「スケール? それ美味しいの」って感じではなかったのではないしょうか。

 

 そしてこれはもっとも重要な点ですが、実際の鉄道と同様、模型鉄道は「決まった線路」を「定められた車両限界」で「他の車両と編成を組ん」で走らせる必要があります。

 これは単品での鑑賞が主な楽しみ方になる他の模型とは決定的に異なる点です。

 当時の日本では、これら最も重要な基準を独力で作り上げることが出来なかった。

 だからまず手に入るもので何とかしようとしたのでしょう。

 それしか手段がなかったのです。

 その結果が、当時入手可能な16.5mmのレール、HOアメリカ型の部品転用を元にした1/80という縮尺、さらに、アメリカ型HOに準じた連結器高さ、車両限界だったのでははないでしょうか?

 

 英国が、当時入手可能なモーターの大きさから16.5mm軌間に対する正確な縮尺の1/87を断念して、英国古来の共通縮尺である1/76を用いたOOを採用したのと同様、それが当時の日本が出来る現実対応だったのです。

 

 この両者に言えるのは、本来あるべき姿とは異なる、現実対応です。

 いわば妥協の産物と言っていいとも思います。

 

 無論、ものがそれなりに満ちている後世の人間が、大上段に振りかぶって、訳知り顔の後知恵で、断罪するつもりは毛頭ありません。

 しかし、事実は事実です。

 

 模型の世界では、もっともらしい風説が流布されていますが、私個人は、それがJの成り立ちのような気がしています。

 

 しかし……、それから70年近くが経過し、日本や世界は文字通り、激変しました。

 

 これはもちろん模型鉄道界も同様です。

 

 いろいろな局面はあるにせよ、共通なのは洋の東西で模型がより細密化し、スケールに忠実になったこと。

 僅かな例外はもちろんあるにしても、これには誰も異論はないでしょう。

 さて、今回論じたいのは規格としてのHOjです。

 

 個人的な意見ながらHOjという規格は、現在の日本の模型鉄道趣味に合致した規格と思います。

 その理由ですが、まず、日本では現在に至るまで模型鉄道ではなく、車両模型が好まれます。

 これはあらゆる趣味誌を見ても、記事の大半が車両模型に関するものであることからも明らかでしょう。

 車両模型を突き詰めて行けば、Nゲージは絶対的な大きさから不利です。

 一方、1/64 Sスケールや1/43.5 Oスケールは、ディテールや迫力という観点からはより優れるでしょうが、単体を鑑賞するのならともかく、模型鉄道としては流石に大きすぎて、走らせる場所や何よりもコストの面で問題があるでしょう。

 実際上記のように、何よりも世界の模型鉄道の主力はHOです。

 

 いずれにしても、神業のような工作技術を持ちえない一般人が、車両模型を追究するには、Nよりもサイズが大きいJやJM、HOjの方が適しているのは間違いないと思います。

 そして、ある意味当然ですが、更にスケールモデルを追究するならば、軌間がスケールではないJは、足回りやプロポーションに悪影響が出てしまうので、選ばれないでしょう。

 そうなると、選択肢はJMかHOjということになります。

 

 この点において、部品の入手や既存J製品からの改造、部品転用などの現実的対応を除けば、JMとHOjの絶対的なサイズの差異は8.8%であり、この両者に優劣はないように感じます。

 また模型鉄道がその他の模型と決定的に異なる点は、上記のように、「決まった線路」を「定められた車両限界」で「他の車両と編成を組ん」で走行することです。

 

 70年前にJが16番を採用したのもそれが故だとも言えます。

 

 この点について言えば、JMもHOjも、少なくとも走行性能において、Jと遜色ない走行性能が期待できると思います。

 実際、このサイズの模型として走行するために最も適していると思われる車体中央に両軸モーターを置き、両端の台車を駆動する方式において、この三者は全く同じ構造の対応が可能です。

 

 

 この場合、同様な方式で全輪からの集電が可能なので、優劣はつかないはずです。

 また、JMとHOjは、Jに比べ、実感を崩さずに急カーブ対応できる点が優れるように思います。

 ただし、高速で急カーブに突入したら転覆する確率はJよりは高そうですが。

 最もこのスケールを志向するのは模型鉄道を知った方でしょうから、そんなことは何ら問題にはならないと思いますけど。

 

 なお、車体と軌間のスケールが同じファインと言うのなら、1/160 6.5mm、1/150 7mm→6.5mmのNmもあります。

 しかし、NmについてはJ、JM、HOjと比べると、現実問題として模型鉄道にもっとも重要な走行性能に相当、影響が出てしまうと思われます。

 理由として、軌間を狭めるためにはギア幅を狭める必要があるのと、小型の模型の場合、恐らくもっとも走行性能に影響のある集電が、9mmに比べると6.5mmでは相当、悪化することが予想されるからです。

 また線路も歪みやすくなるので、更に集電不良や脱線が起きがちになるでしょう。 

 更には粘着が悪化し、牽引力や登坂力も低下してしまうように思います。

 スケールモデルなので正確な縮尺は大切ですが、なんといっても模型鉄道ですので、走りが悪化してしまったら、それは違うと私は思います。


 そういう意味で、あくまで9mm軌間にこだわるのなら、1/120 9mmのTTmを目指すべきではなかったかと私個人は思っています。

 実際には1/150 9mmというJと同様な走行させるための妥協が行われた理由は、1/120 TTではJに比べて、意図した省スペースが図れなかったこと、当時TTはマイナーなジャンルだったこと、そして何より、Nゲージの創世記において外国車との共存が必須だったのでしょうね。

 TTmを採用していれば、正しいスケールだし、少なくとも車両工作はNよりも楽と思いますが、Jと比べたときの大きさの差異が少ないことから、今日のような大ヒットにはならなかったのではないでしょうか。

 実際、TTmの製品は存在しますが、JMやHOjよりもさらにマイナーなジャンルですし。

  

 次に線路です。

 

 日本は家屋が狭いのでNゲージが普及したということになっています。

 

 実物の世界においても平地が少なくカーブが多いことから1435mmではなく、1067mmが採用されました。

 その観点からすれば、軌間は狭い方が急カーブ対応になります。

 そうなるとやはり軌間16.5mmよりは、13mmか12mmが適すことになりますね。

 Jは足回りに相当無理があるので、カーブクリアには決定的に不利であり、また、蒸気機関車、EF55やC55などの足回り、新型電機の枕梁に悪影響を及ぼしているのは、皆様よくご存知の通りです。

 直線専用機なんてのは軌間が狭ければ多少改善できるのかもしれません。

 

 ということで、日本における模型鉄道の規格としては、JMとHOjが優れるように私は思います。

 またHOjの方が線路の敷設サイズが8.8%小さくて済むので、狭い日本にはもっと良いと思います。

 この8.8%は意外と大きな差異なので。

 例えば550Rを回るJMを全く同じ基準でHOjにしたら、500Rになります。

 直径で見れば100mm減じても同じ見え方になるはずです。

 しかしこの100mmは、我が家のような狭い家には相当効くと思いますよ。


 

 今までJMとHOjの優位点について見てきましが、それではJが、HOjやJMより優れることはどこでしょうか?

 これは趣味の優劣ではなく、規格の話です。

 

 Jの他にはない唯一無二の利点、それこそがユニゲージ・マルチスケールです。

 

 つまり軌間が16.5mmの他のジャンルの車両、すなわちHO欧州型、アメリカ型、OOと同じ線路を走らせることが出来るということです。(ただし使用するレールには条件がありますが)

 JMは他のカテゴリーとの共用は出来ないし、HOjは現状、HOmしか共用できません。

(当然TTは共用できますが、スケールがかけ離れており、同列には比せないので除外します)

 

 逆な言い方をすると、もし軌間が同じ他のカテゴリーの車両を走らせないのであれば、Jは、HOjやJMと比べた場合、何ら優位点はありません。

 

 と言うか、HOやOO、(Sn1067、Oeも)と併用する気持ちがないのなら、わざわざ軌間の縮尺を車体と変え、足回りのバランスを大きく狂わせてまで、16.5mm軌間を採用する論理的必然性がなくなってしまいます。

 くどいですが、模型を取り巻く現実の話ではなく、基準・規格の話です。

 

 それに誰も言いませんが、Jの元となった16番と同様、12番や13番だってありのはずですよね。

 軌間12mmや13mmが正で、そのレールを共用できる全ての鉄道模型という概念が。

 具体的には、1/100 12mmの欧米型、1/95 13mmの欧米型という逆転の発想です。

 実際にそんなものは存在しませんし、もしそんなのおかしいと思うのなら、やはり1/80 16.5mmのJも同様におかしいということになりますよね。

 

 話を戻しまして、実際にJを嗜まれている大多数の方が、ユニゲージ・マルチスケールを嗜まれていらっしゃらないことからしますと、16.5mmの必然性が極めて低いことがわかるのではないでしょうか?

 Jの方は、欧米型には全く興味が無いという人が多いですから。

 少なくとも、メルクリンのCレールを使って、二線式のJを走らせているのは、日本でも私ぐらいではないかと思います。

 

 ということで、もし今の日本の趣味界の圧倒的多数を占める日本型だけを志すのであれば、敢えてスタイルを大きく崩してまで、わざわざ16.5mmにこだわる必要はなく、Nを超える細密感、重量感、そして何よりも実車らしさを追求されるのなら、Jではなく、スケールモデルであるJMかHOjを選んだ方が良いと思います。

 特に特定番号機なんて世界にはあまりないようなこだわりを見せる車両模型・細密化第一の日本には、スタイルが実車に近づき、プロポーションが格段に良くなるこっちの方が絶対にかっこいいですから。

 

 おまけに実感を崩さずにカーブ半径を小さく出来ますし。

 確かに新幹線、近鉄本線、京急線等を走らせるにはHOなら16.5mm、JMなら18mmのレールが必要になりますが、HOの新幹線自体、Jでは全く発売されていないアイテムですし。

 新幹線は在来線には乗り入れられないわけですしね。

 

 

 以上、あくまで個人的な意見ですが、日本型に適した規格としては、HOj、JMのいずれもがJに勝るという結論になりました。

 HOjとJMについて、車両模型及び模型鉄道としての有意差はないと思います。

 強いて言えば、レールの敷設面積が17%も小さくなるHOjの方が、私にとっては有利ですけど。

 まあ、私のように欧州型やアメリカ型と並べたい人にはHOj一択ですし、海外型には興味が無いという日本の殆どの方にとってはHOj、JMのどちらでも全く問題ないでしょう。

 

 それで、ここからは更に個人的な感想ですが、日本の鉄道は世界一と思っている方も多いと思います。

 でも世界一の根拠は、観念的なものではなく、定量的でなくてはなりません。

 しかし、Jスケールでは世界との正しい比較は出来ないのです。

 であれば、世界と条件を合わせるために、共通縮尺である1/87を採用すべきと思います。

 ものさしが違っていては、比較を行うことは出来ませんので。

 

 

 以上、日本における模型鉄道規格について考えてみました。

 予想されたことですが、他の16.5mm軌間の模型と共存しないのであれば、全ての切り口において、Jは、JMやHOjに比べて不利という結論になりました。

 

 しかし2023年の日本において、甚だ残念なことに、HOjもJMも極めてマイナーな、ごく一部の方だけの存在です。

 こんな記事を書いているとうの私も含めてです。

 

 なんでそうならないか。

 優れた規格が勝てないのか。

 

 その理由は唯一です。

 JMやHOjの模型はあまりにも高額であり、私のような一般人には高嶺の花だからです。

 

 なお、この点はJの製品や部品の転用が可能なJMの方がまだましですが。

 もっともJは軌間をむりやり拡げているので、車体裾の絞りや旧型電機のデッキなど、そして何よりも蒸気機関車の足回りが、犠牲になっているそうです。

 従って単にJの模型の軌間を13mmにしただけでは、13mmの線路を走れるバランスの悪い模型になってしまうことも多そうですけど。

 そういう意味で、はじめからJM規格に完全特化した製品というのはまだまだ少ないように感じます。

 すいません。

 私、JMについては全く知らないのでこういう認識ですが、実際、JM規格の蒸気機関車って発売されているんでしょうか?

 

 話を戻しまして、Jが絶対的に優位なのは、量産メーカーが揃ってJに出ているから。

 その上、長い歴史があって、中古品がたくさん出るからでしょう。

 

 2023年、日本で模型鉄道を新規に始めるにあたり、選択するのはほぼ100%Nでしょう。

 しかし、Nに飽き足らなくなってくる方が一定数居るのは全く持って事実です。

 でも世界の中で唯一、OO~HOスケールのサイズの模型が主力ではない我が国では、Nの価格に比して、これらのスケールの価格が高すぎる。

 言い換えれば、Nが安すぎると言えなくもないですが。

 そして、HOjやJMの価格は、Nを1とするならば、優に40以上。

 その点、Jのプラ製の量産品なら4~5、ましてその中古なら、2~3、古いブラスだって、7くらいなのです。

 誰がどう考えたって、HOjやJMではなく、Jへ行くでしょうね。

 それも高度成長期ならいざしらず、実質所得が減るばかりの厳しすぎるこのご時世、選択肢はありません。

 上記のように、リタイヤ間際の私だってまさしくそうです。

 

 

 でも、それって本当に良いことなんでしょうか?

 

 現在の価格の天文学的差異は、製品グレードと生産量によります。

 残念ながら現時点ではそのような製品が存在しませんが、もし既存部品の転用を全く考えないEF65の量産製品、すなわちプラボディ、ダイカストシャーシー、両軸モーター、両台車駆動の量産模型をゼロから設計し、全く同じ数だけ生産したら、J、HOj、JMのいずれもほぼ同じ価格になるはずです。

 ブラスも同様で、部品転用がなければ、この三者の原料費、開発費はほぼ同額と見ていいので、量産数が同じなら同じ価格になります。

 もし同じ価格なら、あなたはどれを選びますかって話です。

 

 少なくとも私は、欧州型主体ですが、やはり実物らしさにはこだわりたいし、何よりも欧州型と正確な比較を行いたいのでHOjを選択しますね。

 もしそういう製品が供給されたら、Jを全部手放して、HOjを揃えます。

 HOやHOmは手放さないにしてもね。

 

 同じ12mmの線路を用いるHOmの世界において、ドイツのBemo社はプラ製の量産模型を生産している、ほぼ世界唯一と言っても良い存在です。

 発売している製品は、スイスのRhB、FO、BVZ、そしてDR等の欧州鉄道の中ではそれなりに知られるものの、決してメジャーな存在ではありません。

 同社の製品は、蒸機など一部の特殊な形式を除き、もちろんプラ製品であり、それも世界最高水準の精度と素晴らしい走行性能を誇ります。

 何しろ各国国鉄のようなメジャーな車両がなく、車両数の少ないスイスなどの私鉄がメインであり、模型の生産数が限られるので、価格は通常のHOと比べると高めです。

 しかしブラス製ではないので、日本のような天文学的な差異ではなく、HO量産品の20%くらい高めの範囲であり、まだ何とか手の届く範囲です。

 あんなマイナーな世界で、あの出来、そして高いながら何とかなりそうな価格なのです。

 Bemoのレーティッシュ鉄道 RhB 電気/ディーゼル ハイブリッド機関車Gem 4/4 801(Bemo 1267 101)

 少し前の製品ですが、これだけの出来です。

 

 そうであれば、車両数や路線延長、そして運行密度、ファン数、何よりも認知度が遥かに高い日本において、HOjのプラ製の量産模型が出来ないはずはありません。

 Bemoができることなのですから、日本のメーカーだって絶対にできる。

 少なくとも技術者の端くれでもある私はそう信じます。

 

 私にとっての夢は、HOjやJMが標準となった世界です。

 

 具体的には、HOjが日本の標準になり、どうしても16.5mmのレールと共用したい人のために、HOjの16.5mmレール対応版(正しく16番!!)が発売されるような。

 そんなのあるはずないなんておっしゃる方、現にBemoはHOmの16.5mm版を出していますよ。

 機関車 客車

 以前は、9mm版も出していましたが。

 彼の地でも12mmはマイナーで、圧倒的に16.5mmが強いためでしょう。

 驚くべきはRhBのGe 4/4IIIの三線交流版まである。

 確かにかっこいいとは思わないけど、現に存在するのです。

 ということはそういう需要もあるという証左になりますね。

 

 そういう意味で、当時やむを得ない事情があったにせよ、スケールモデルという重視すべきポイントを無視した妥協の産物であるJは、それから70年が経過し、何もかもが大きく変わった今、大多数の日本のモデラーにとって本当に望ましい規格なのか、あるべき模型の姿なのか、趣味人一人ひとりが考えてみるのも悪くないと私は思います。

 

 反面、あれから約45年経ちますが、プラモに大変依存していた私にとって、AFV真冬の時代という正しく悪夢でしかない経験は、未だに強烈な印象と傷跡を残しています。

 

 結局、模型趣味とはメーカーに振り回されるだけなのです。

 

 だから日本を代表する2大メーカー、そして伝統ある有力ブラスメーカーがJしか認めておらず、HOjやJMを完全無視している以上、どうにもならないのかもしれません。

 

 それは私もよくわかっています。

 

 でも、1977年当時と決定的に異なるのは、Webをベースとしたモデラーの発言力や発信力です。

 これらは時として大きく逸れた方向へ進むこともないわけではありませんが、それでも疑問が顕在化すれば、大きなうねりになっていくかもしれません。

 ならないかもしれませんけど。

 

 でもね、長らく日本のN界に君臨したオーバースケールのKATOのEF65、C62、D51、C11ですが、車体の大きさが1/150の同社製品が出た途端、瞬時にして過去の存在となりました。

 模型の価値は価格だけではないかもしれませんが、中古価格が価値の一つの定量的把握とするならば、車体の大きさが1/150の模型の登場前後で、これらオーバースケールの模型は価値が激減しています。

 確かに車体は大きかったり、長かったりですが、これらの末期の製品はどれも走行性能が高く、また塗装のグレードも高かった。

 スケールモデルだけではない「模型鉄道」というくくりなら、決して劣る存在ではありません。

 むしろ優れた存在でもある。

 でも、市場はそうは見ていなかったんです。

 

 更にもっと古い話をしますと、1980年頃、日本ではプラ製のJは全くと言っていいほど存在しませんでした。

 今の若い方はご存知ないかもしれませんが、当時の日本の模型鉄道界(ではなく鉄道模型界)には「プラアレルギー」なる2023年の日本では、絶対に信じられないような偏った思想が横行しておりました。

 これは当時の趣味誌と一部メーカーが結託して、コアなマニアを焚き付けたものと私は想像しております。

 確かに1970年代のプラ製品は、はめ込み窓でもなく、もっさりとした分厚い車体で、そういう意見が出てもあながち間違っているわけでもありませんでした。

 しかし、既にAthernや欧州製品には改善の兆しが明白に出ておりましたし、どう逆立ちにしても、絶対に量産効果を得ることが出来ず、工賃の上昇に従って、値上がりしかありえないブラス製品には未来なんてあり得なかったのです。

 結果としてNを除く、日本の模型鉄道のプラ化は、世界に対し、40年以上遅れを取ることになりました。

 Bemoのレーティッシュ鉄道 RhB Ge 6/6 I クロコダイル

 今から40年前の1980年代前半の製品です。

 日本でプラアレルギーなる妄言がまかり通っていた時代、ドイツではこの水準の製品が市販されていました。

 今更ながら、いかに日本の業界が世界に取り残されていたか、本当に腹立たしい限りです。

 

 何よりもプラモデラーであり、当時より、プラ製品の極めて強い信奉者であった私は、この事実からも日本の趣味誌やメーカーを信じることが出来ません。

 どうしてプラ製品に趣味誌や業界が抵抗したか。

 この理由は単純至極、当時の日本の鉄道模型業者は零細ばかりで、プラ製品のように巨額の投資には耐えられなかったからです。

 要は業界保護のために、趣味人が犠牲になったという話であり、JMやHOjの妙な完全否定も似たところがありますね。

 

 大分話が脱線しましたが、そんなブラスオンリー、プラ排斥のJの世界にKATOが進出しました。

 確か1980年頃ではなかったでしょうか?

 案の定、最初は受け入れられませんでした。

 KATOは当初もっと多くのJ製品を予定しておりました。

 昔の同社J製品の箱には485系など描いてありますし、実際カタログにも載りました。

 でも、受け容れられなかったためか、はたまたプラ製Jは自社のN製品を食うだけと判断したのか、KATOのJに対する熱意は今に至るまで全く高まりません。

 その一方、前述のように車両模型に特化した日本では、Nには飽き足らなくなる層が出ることは容易に想像できたので、TOMIXやマイクロ、トラムウェイなど、Jのプラ製品は徐々に保守的極まりないJの世界に風穴を開けていきました。

 今では高級ブラス製品の代名詞でもある天賞堂までが、プラやダイカスト製品を市場に供給するまでになっています。

 これは同社HPにも明らかなように、ブラス製品の価格が上がりすぎて、ごく一部の愛好家のためだけになってしまったことが全ての原因です。

 しかし、こんなことは40年以上前に既に明白だったことであり、返す返すも失われた40年の罪は重いです。

 

 いずれにしても、今やJの世界もプラ製品が勝利者です。

 こんなことは40年前には絶対に考えられませんでした。

 あの頃はよく聞かされたプラアレルギーなんてまず聞かなくなったのです。

 

 だから私は、「今がこうだから絶対に変わらない」とは決めつけたくはありません。

 

 確かに、HOjやJMは上記の話よりも更にドラスティックな変化なので、話が違いすぎるかもしれません。

 でも、今は全く手が届かない価格も、生産量が全て。

 基礎的コストは変わりません。

 現にBemoはやっています。

 ドイツが出来るのだから、日本も出来ないはずがないと思いたいです。

 だからJと同じ価格(あるいはやや高め)のプラ製のHOjやJMがレールを含んだ形で出てくれば、風向きが全く変わらないとまでは言えないのかもしれません。

HOm           16番を1/87に縮小       HOe

 現に1950年代、一世を風靡した0番はJに取って代わられ、そのJの栄華も10年足らずでNに奪われてしまいました。

 爾来、Nが主役となって約50年が経過しましたが、何事にも永遠不滅はありません。

 この先どうなるのか。

 もしかしたら日本では、模型鉄道趣味自体が消滅してしまうのかもしれませんが、私は出来るところまで見守りたいです。

 

 いずれにしても、本件はただ、頭ごなしに決めつけるのではなく、本来どうあるべきか、趣味人自身が時には考えてみるのもいいことではないでしょうか?

 

 上記の通り、模型趣味は非常に受け身であり、概してメーカーや販売店が圧倒的に強い世界です。

 

 だからといって趣味人の側が、考えてはいけないということもないはずですので。

 

 実際にやるのには、コストがかかってしまうので無理だとしても、考えてみるだけならタダですしね。

 それにJMなら車輪だけ、HOjなら1,540円のワム50000がある。

 ひとつこれらを試してみて、考えてみるのも決して悪いことではないと思います。

 やっぱりダメなら売ればいいのですし。


 

 再び長々とした駄文を読んでいただき、本当にありがとうございました。

 

2023/2/10 記

 

 

 

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