フランス国鉄 SNCF ボギー無蓋車 Qhoy 177 794 (Hornby Acho 727)

 今回は、フランス国鉄 SNCFの無蓋車 Qhoyを紹介いたします。

 どこか欧州型らしくない感じもあるこの貨車ですが、それもそのはず、もともとはアメリカの貨車なのです。

 今回はじめて知ったのですが、この貨車はTP 1917というシリーズに属す貨車であり、もともとはフランスの貨車ではなく、第一次世界大戦時に米軍がフランスに持ち込んだものだそうです。

 こちらによりますと、第一次世界大戦の休戦後に、米軍は持ち込んだ大量の車両をフランスに安く販売したそうで、アメリカ式に高度に標準化されたボギー貨車(TP US 1917)は、30,000台以上が導入されました。

 これらは戦争で大きな打撃を受けたフランス鉄道の大きな力となり、1950年代に至っても、貨車の10%強を占めておりました。

 TP 1917シリーズが最後に引退したのは、1980年代!!だったそうで、60年以上も活躍したことになりますね。

 TP 1917シリーズには、有蓋車、無蓋車、こちらの低側無蓋車、高速無蓋車、バラスト車、平貨車、大物車などが含まれます。

 短期間での大量生産を旨とし、上記のように標準化された設計で作られました。

 いかにもアメリカ型と言えるダイヤモンド台車を採用しているのが特徴的です。

 残念ながら主要諸元はわかりませんでした。

 しかし、1917年の時点で、既に量産に適した標準化が行われているのは、さすがアメリカといった感じです。

 いずれにしても、1919年頃、欧州にはボギー貨車は殆ど無かったはずですので、これらTP US 1917シリーズは異彩を放ったに違いありません。

 それでこの模型の製造元のHornby-Achoですが、英国の著名な模型鉄道メーカーHornbyのフランス法人です。

 1960年から1974年の初めまで、英国とは全く異なる欧州大陸のHO規格の製品を発売していました。

 初期には優れた製品を発売したようですが、親会社合併の影響で新製品が少なくなり、衰退してしまったようです。 

 Hornby-Achoは1974年に消滅しましたので、私は模型店で売っているのを見たことがありません。

 ただ私より一回り上の世代の諸先輩から話を聞いたことはありました。

 それで今回、2度に分けてまとまった量を入手することが出来ましたので、紹介させていただこうと思います。

 ごらんのように、各部のディテールは細かく、今から60年以上前の模型とは思えない出来ですね。

 ただし当時のことでもあり、ほぼ全ての車両がショートスケールのように思います。

 茶色は無塗装ですが、それほどおかしな感じはありません。

 特筆すべきはダイヤモンド台車で、結構精度の高いダイカスト製になっています。

 欧州型の貨車の台車がダイカストなのは、今に至るまでほぼ例はないのではないでしょうか?

 上記のリンク記事では幅が広すぎるとのことですが、黒の質感は明らかにプラ製よりも優れますね。

 車体下部の補強バーは支柱も含め、金属製です。

 この部分、古いプラは結晶化によりもろくなってしまい破損しやすくなるので、良い取り組みと思います。

 車体が経年劣化で少し反っていますが、ダイカストフレームの歪みかもしれません。

 レタリングは流石に50年以上前なので、今日と比べるべくもありません。

 最もこの当時、レタリングのない車両も多かったのですが。

 それで本車の型式ですが、こちらによりますと、Qhoyが正しいようです。

 Q:長さ 9〜15mの折り畳み式の長物車

 フランス型の型式名は全くわかりませんでしたが、今回調べてたどり着きました。

 カプラーはアメリカ型のX2Fのような形です。

 ドイツ型では見たことがありませんね。

 ダイカストのフレームも良く出来ているように感じます。


 それでこの製品ですが、私のイメージしている古いフランス型とは、全く違います。

 古いJouefやFRANCE TRAIN、イタリア製のLimaなどは、正直言って、何か構造がちゃちな感じがします。

 特に走行系や動力系に強く感じますが、こちらHornby-Achoの製品は、それらとは全く違います。

 写真を見てもらうとわかりますが、スポーク車輪こそプラ製です(当時の技術では、金属製では精度のあるスポーク車輪が安く作れなかったのかもしれません)が、車軸は太い金属製です。

 そして、車軸のプレーンの端末をダイカストの台車が受けています。

 上写真の通り、台車は経年劣化?でやや曲がってはいますが、これならば、給脂さえきちんとしておけば、摩耗の心配なしに安心して使えますし、ネジを緩めれば車輪も簡単に外れるので、給脂も楽です。

 フレームもダイカストで、車輪抑えも金属板という結構コストの掛かる構造になっていますね。 

 これは模型の精度としては、遥かに上のA.C.M.E.の貨車が、少し走らせただけで軸受が摩耗してしまうという情けない話(出典)と比較できるでしょう。

 あくまで個人的な見方ですが、私は走ってこその人なので、軸受が簡単に摩耗するような模型には、とても合格点はつけられないですね。

 堅実の代名詞であるドイツ製品(私感では幻想でしか無いですが……)よりも、ずっと優れている構造に感じます。

 それはともかく、本家Hornbyの製品は全然知りませんが、このようなしっかりした構造になっているのでしょうか?

 もしかしたら、英Dinkyよりも仏Dinkyの方が優れた模型を生産したのと、同じ話でしょうかね?

 

 ところで私はスケール重視なので、今まで古い製品は対象にして来ませんでしたが、今回、良い意味で予想が外れた気がします。

 フランスの模型鉄道は、早くも1970年代から衰退期に入り、長らく低調な時代が続きました。

 欧州型HOはドイツ勢とROCOが牽引する時代に変わり、2000年頃からLSMやA.C.M.E.がドイツ勢に代わり、力をつけてきました、

 しかしこれらのメーカーは、フランス型の貨車には全く興味を示さなかったため、フランス型貨車の模型は、殆ど入手することが出来ませんでした。

 数少ない製品も、あまり日本には入りませんでしたし。

 ようやく2010年代になって、REE MODELESが、空白となっているフランスオリジナルの貨車を、積極的に現代の精度で発売するようになりました。

 同社からは、こちらのTP 1917 Qhoyも種々のバリエーションが出ているようです。

 とは言うものの、日本ではREE MODELESの入手は相当難しく、かつ高額です。

 そういう意味で、半世紀以上前の素朴ながら堅実な出来のHornby-Achoの貨車モデルは、現在でも一定の価値があるようで、特に欧州ではそれなりの価格になっているようです。

 反面、日本ではいつも通り、一部の好事家のアイテムなので、今回、安価で入手できたのはラッキーでした。


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